作品概要(公開時フライヤーより):
 
ゆったりとした時間と空間がたゆとう繊細な「私小説」を思い浮かべていただきたい。
舞台は函館。しかし、リスボンでも、ヘルシンキでもよかった。
どこか遠い所、そこで一人の男と女が出会う。
誰にも逃れたい過去があり、時にはそれが未来への一歩を阻む。
生きようとする者を見守る死者たちの霊は力にならない。
死者の国にはとどかぬ想い、とどかぬ声。
手紙のような文体、モノクロームのフォトジェニーに、つきせぬ想いを託した新人・大西功一監督の力作である。
 
 
「映画の、ふたりの生きている世界では、椅子のきしむ音がよくきこえる。いま、こんなふうに黙っているふたりに、どうやったらなれるのだろう。こんなふたりに憧れる恋人たちが望んでいた映画が、『とどかずの町で』であるかもしれい」
・・・・・・・・・・・・・・・・小沼純一/音楽評論家
 
 
夜、寂しいレールの音を軋ませながら走る路面電車、海猫の鳴く荒れた冬の海、うらぶれたネオン街。人物を風景の広がりの中で捉え、地方都市の独特の旅情が主人公たちの心と一つに溶け合ってゆく。超低予算で製作されていながら、どこかアラン・タネールの「白い町で」('83)や、フィリップ・ガレルの一連の作品を想起させるヨーロッパ的な叙情を湛えた作品である。
 
「唯、唯、作品への愛情であふれていて、それを邪魔するキャメラワークやモンタージュは一切使っていない。それはもう大西さん自身だし、そんな作品照れ臭そうに発表している映像作家に又一人出会えて、僕は本当にうれしかった」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・津田寛治/俳優
 
 
この作品には死者の魂に見守られているような不思議な静寂と安らぎがある。コウイチも、彼が出会う女性ユミコも、共に両親を失っている。そして各々が、過去の恋人や仕事や逃れたい様々な想いを背負って暮している。そんな時、恋は、過去を振り切る力になるのだろうか。
主人公のコウイチは大西監督自身が演じ、彼が偶然バーで出会う亡き父親と瓜二つの「流し」のアコーディオン弾きを、フォークソング界の重鎮、高田渡が独特の存在感で好演している。
音楽はムーンライダースの前身である70年代伝説のバンド「はちみつぱい」の渡辺勝のオリジナル・スコア。
美しいピアノの調べが静寂さをいっそう引き立てている。